みなさん、こんにちは。
医療経営士のお勉強シリーズです。
今回は「医師不足対策」編です。
医療経営士3級試験でも医師数に対する施策などについての出題がされています。
それでは早速始めていきましょう。
目次
医師養成の歴史
まずは医師養成の施策なとの歴史を振り返ってみましょう。
歴史を振り返ると膨大な情報量なので、ポイントを極簡単にまとめます。
- 1973年:一県一医大構想が決定。
- 1986年:医師の新規参入が削減。
- 2006年:地域や診療科による医師偏在が公表。
- 2009年:医学部の入学定員が増員。
- 2011年:地域医療支援センター事業開始。
- 2016年:東北医科薬科大学医学部の新設。
- 2017年:国際医療福祉大学医学部の新設。
一県一医大構想
日本の医療を振り返ると、まずは国民全体への医療の提供を主として量の確保を行うところから始まりました。
第二次世界大戦を経て、日本を復興させていく一つに国民全体の健康管理があったわけです。
1961年に国民皆保険制度が導入され医療費の財源が確保された結果、医療需要は増大していきました。
その結果、相対的に医師不足となったのです。
さらに1973年には老人医療費無料化(福祉元年)となり、ますます医療機関の充足が求められました。
そのため、医師数を増加する施策として、その当時医学部がなかった15県にも医学部を創設することなりました。
それが一県一医大構想と呼ばれるもので1979年の琉球大学医学部の創設をもって完成しました。
一県一医大構想が実現したことによって医学部の定員は約8,000人になりました。
1970年の定員は約4,000人であったため、倍近くに増えたのです。
余談ですが、当時医学部のなかった15県とは山形県、茨城県、富山県、福井県、山梨県、静岡県、滋賀県、島根県、香川県、愛媛県、高知県、佐賀県、大分県、宮崎県、沖縄県になります。
医師の新規参入が削減
さて一県一医大構想により一気に医師が増加することになったわけですが、1980年代になると拡大を続けてきた医学部定員について見直しの動きが出始めました。
まず1982年に「今後における行政改革の具体化方策について」閣議決定がなされ、今後の医師数を適切にしていくことが検討されました。
そして1986年には国公立大学の医学部定員を10%削減することが決定されました。
その結果、1985年には8,340人であった医学部定員は1990年には7,750人に減少しました。
その後1997年に「財政構造改革の推進について」閣議決定され、医学部定員の更なる削減に取り組むこととされ、定員数は7,695人まで減少しました。
地域や診療科による医師偏在が公表
さて医学部定員が削減されたことにより医師の絶対数は減少していくこととなりました。
一方で、医師の絶対数の減少は地域や診療科による医師の偏在が目立ってくることになりました。
地域偏在とは都心部には医師が多いが地方には少ないということで、診療科偏在とは内科・眼科などは多いが外科・産婦人科などは少ないといった偏りのことです。
そして地域偏在には2004年の新医師臨床研修制度の実施が強い引き金となっています。
新医師臨床研修制度については「医療従事者に関する法規まとめ」にも記載していますが、ここでも簡単におさらいします。
新医師臨床研修制度を簡単にまとめると「いきなり専門科だけに従事せずに内科や救急、地域医療の経験を積んで、将来どの科に進むにせよ救急などを含めて幅広く診療してね」ということを目的とした制度です。
新医師臨床研修制度が始まる前は、医師は大学病院の医局に入局することが多かったため医局は医師を地方に派遣する余裕がありました。
しかし、新医師臨床研修制度が始まると医局に入局しない医師が増えてしまい医局の医師数が減ってしまいました。
旧制度の平成15年度は研修医の大学病院在籍率は72.5%でしたが、新制度が始まった平成16年度に55.8%と低下し、平成20年度には46.4%まで低下しました。
その結果、医局から地方に派遣される医師も減り、地域偏在が顕著になったのです。
そもそも大学病院は高度な医療を提供する医療機関なので、各診療科毎に専門性が高い病院です。
あくまで例えですが消化器内科であれば、癌や潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性腸疾患、自己免疫系疾患など一般病院では対応が容易ではない疾患群をカバーしているわけです。
逆に一般的な急性胃腸炎の初診などを診療する医療機関ではありません。
新医師臨床研修制度以前は軽症患者も多数含まれる救急搬送受け入れを積極的に受け入れていなかったり、肺炎や糖尿病、軽度外傷や小児科医療などなど幅広く対応するというスタンスではなかったのです。
専門性の高い疾患は大学病院で、一般的な疾患は一般病院でというのは医療の効率を考えたときには当然の流れです。
一方で、専門疾患しか学んでいないと一般的な疾患に対応しにくいという側面も無きにしも非ずでした。
例えば大学病院から一般病院に派遣され当直業務などを行った際に、専門外の疾患の救急要請であれば断ってしまうというようなことですね。
これは救急車のたらい回しに代表され、社会問題にも発展しました。
それまでも眼科医が腹痛の救急患者を診るなどということは普通に行われていました。
専門が何であれ、医師としての責任を全うするために頑張って診療していたわけです。
しかしながら、非専門領域であっても適切な診察・処置ができなかった場合には医療訴訟に発展する社会背景となり、医師はリスクを避けたいと考える流れも生まれました。
そこで医学部を卒業後は2年間に渡って、内科・救急科など様々な疾患を経験し、特定の科の専門医となった後でも一般的な救急疾患などに対応できるようにしようという新医師臨床研修制度ができました。
 
その結果、軽症から重症まで、一般的疾患からある程度の専門領域まで診療することが可能である大学病院以外の一般研修病院が新医師に人気となったのです。
偏在については後程、改めて説明いたします。
医学部定員増員と地域医療支援センター
医師の偏在はあるものの基本的には医師不足と考えられた結果、2008年(平成20年)に政府は医学部の入学定員を「早急に過去最大程度まで増員する」との方針を打ち出しました。
さらに地域偏在への対策の一つとして2011年に地域医療支援センター事業が開始され、2014年には医療法改正により地域医療支援センターの機能が法律上に位置付けられました。
第25回医療経営士3級試験では地域医療支援センターは医師法で位置付けられているという選択肢があり誤りと判断できる必要があったようです。
そもそも地域医療支援センターとはなんでしょうか。
地域医療支援センターとは都道府県に設置する「地域医療に従事する医師のキャリア形成支援と一体的に、医師が不足する病院への医師の派遣調整・あっせん等を行う」ことを目的としたセンターです。
医師派遣元となる大学病院と調整を行い、センターに登録された医師を地域の医療機関に派遣します。
さらには国公立大学医学部が設置している「地域枠」に対しての支援なども行っています。
地域枠で入学すると在学時に各都道府県の定める奨学金が貸与されたりしますが、卒後9年間は医師不足地域で勤務することになります。
さらには新たに医学部の新設が行われ、2016年には東北医科薬科大学医学部、2017年には国際医療福祉大学医学部が新設され、2017年度の医学部入学定員は9,420人まで増員しました。
その後は概ね変わらず、2022年度の国公私立大学医学部定員は9,374人となっています。
医師偏在問題
医師数は、一県一医大構想で増加した後に医学部定員が10%程削減され、医師不足や医師偏在が問題となった結果、医学部定員は増加してきているという流れはおさえることができたでしょうか。
続いては医師偏在問題についてみていきましょう。
診療科偏在
診療科偏在とは、診療科によって医師数に偏りがあることを表しています。
例えば、平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況によれば、医療機関に勤務する医師311,963人(平成28年より↑)のうち、近年成り手が少ないとされる外科は13,751人(↓)、産婦人科は10,788人(↓)です。
内科は60,403人(↓)、眼科は13,328人(↑)、皮膚科は9,362人(↑)となっています。
現在の医師数だけでは多い少ないの判断が容易ではありませんが、医師数の推移を見てみると外科医・産婦人科医は以前からほぼ変わらないことがわかります。
医師全体数は増加していることを考えると、相対的には減少していると考えられます。
では、なぜ診療科偏在が起きるのでしょうか。
日本では医師がどの診療科を選択するかは個人の自由です。
そのため、簡単にいえば人気がある科は多くなり、人気がない科は少なくなります。
例えば外科は、労働時間の長さや命に係わる緊急対応がある上に医療訴訟のリスクもある、などにより「忙しい科、大変な科」であると考えられます。
診療科によって救急疾患となる頻度や緊急度に違いがあるのですね。
厚生労働省が公表している診療科別の勤務時間をみてみると、診療科間で勤務時間60時間以上の割合に2倍近くの差が生じています。
診療科別医師数の推移で医師数が伸び悩んでいる外科・産婦人科は勤務時間60時間以上の割合は高くて、医師数の増加がグラフ上は目立った麻酔科・精神科・放射線科の勤務時間60時間以上の割合は低めになっています。
勤務時間の多少が医師数の増減に影響しているのか(勤務時間の負担が少ないため医師数も増える)、医師数の増減が勤務時間に影響しているのか(医師数が増えるため勤務時間の負担も少なくなる)、はっきりとしたことは言えませんが何らかの関係はありそうです。
さらに、後述しますが昨今は女性医師が増加しています。
女性医師は妊娠・出産・育児などを考えたときに外科系は選択しにくくなってしまう背景があります。
診療科 | % |
皮膚科 | 54.8 |
産婦人科 | 44.5 |
眼科 | 42.4 |
麻酔科 | 40.9 |
救急科 | 14.9 |
外科 | 7.1 |
心臓血管外科 | 6.2 |
気管食道外科 | 2.5 |
外科医などの「忙しく大変な科」については、給料を増やすなどの特別な対処を考えたり、女性医師も働きやすい仕組み作りなどが診療科偏在を解消していくためには必要になってくると考えられます。
地域偏在
地域偏在はすでにある程度述べていますが、医師数の分布を全国でみると概ね「西高東低」となっています。
西日本では多く、東日本では少ないのですね。
特に東北や北海道では医師数が少ないですが、北海道などの土地が広い地域はその地域内でも偏在があります。
例えば北海道では政令指定都市である札幌市には医師・医療機関が充実しているものの、過疎化が進む地域では圧倒的に医師・医療機関が少ないのですね。
医学部の定員を増やして新規医師数が多くなっても都市部に集中してしまっては地域偏在は解決しません。
そのため地域医療支援センターなどの働きによって、地域偏在が少しでも改善することが期待されています。
女性医師数
近年、女性医師の割合は増加傾向にあり全医師数の約20%となっています。
※平成30年末の医師数はは327,210人で男性255,452人(総数の78.1%)、女性71,758人(同21.9%)でした。
また、医学部入学者・国家試験合格者数に占める女性の割合も以前より増加してきており、30%強となっています。
昨今、医学部入試で女性の合格率が上がりすぎないように点数調整がなされていた問題が発覚しましたね。
東京医科大学では医学部医学科の一般入試で女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を制限していたことが判明したのでした。
なぜそのようなことをしたのでしょうか。
東京医大側は「女性は年齢が進むと医師としての活動性が下がること」を懸念したとしています。
大学病院に勤務する医師の確保として自分の大学医学部出身者は重要な位置を占めるため、女性医師が増えて医師が少なくなることを回避する目的があったということですね。
受験者も知らないところで無条件に点数操作されることは許されませんが、確かに女性は妊娠・出産・育児などで職場を離れる機会があることは事実です。
女性医師の就業率を見てみると、医籍登録後(≒医師国家試験合格後)12年(概ね38歳)時の就業率は73.4%と最低になっていることがわかります。
ちなみに医籍登録とは、医師国家試験に合格した後に、氏名や本籍などを厚生労働省の帳簿に登録し、医師免許を発行してもらうことを指します。
医籍登録が完了しないことには医師として医療行為ができないため、医療行為を行いたいほとんどの医学生は医師国家試験合格時に医籍登録を行います。
医籍登録後12年というと、一人で対応できる臨床能力が身についていることはもちろん、後輩の指導や学会活動、論文作成など中堅としての仕事が多々ある時期です。
そのため現場としては頼りになる年次の医師が離職してしまうのは確かに痛手とはいえます。
次に年代別・男女別の週当たり勤務時間60時間以上の病院常勤医師の割合を見てみましょう。
70代以外は男性の割合が高く、特に30代から50代で顕著です。
これをもって「女性医師の仕事時間が短い」と短絡的なことはいえませんが、そもそも週当たり勤務時間60時間以上の割合を減らして、男女に関係なく一定の医師への負担が強くならないように働き方改革を進めていくことが大切であると考えられます。
病院勤務医の減少
さて、医師不足問題を考える上で病院と診療所についても考える必要があります。
医師不足が問題となるのは主に病院の医師数です。
救急搬送の受け入れ先は主に病院ですし、夜間の出産なども診療所よりは病院が多いのではないでしょうか。
実際、診療所の方が病院より勤務時間、特に夜間・休日の救急対応などに時間を割く必要性が低くなります。
病院と診療所別に、週当たり勤務時間が60時間以上となっている割合をみると病院の常勤医師が圧倒的に多くなっています。
医療提供体制の仕組みで述べたように、無床診療所(以下クリニック)は増加しているわけですが、裏を返せば病院勤務医が減っていることなります。
クリニックが増えることが悪いわけではありませんが、クリニックの医師が増えても病院での夜間対応や、緊急帝王切開などを行う医師が増えるわけではありませんから、いわゆる医師不足は解消しません。
ではなぜクリニックが増えているのでしょうか。
その理由の一つに「勤務時間」があげられます。
クリニックの方が勤務時間が短い傾向にあるのは前述の通りです。
勤務時間の他に医師が負担と感じる業務として、夜間の呼び出しや当直、いつ呼び出されるかわからない待機当番などがあります。
これらの業務についてクリニックでは負担せずに済むことが多くなります。
クリニックを開業するのは、病院という組織に縛られずに良い医療を提供したいという「自分のやりたい医療の追求」が目的でもあるわけですが、今後はクリニック開業にも規制がなされるかもしれませんね。
医師不足改善対策
医師不足といわれる現象には様々な原因が関わっていて、単純に医師の絶対数が増えれば解決するというわけではありません。
地域偏在や診療科偏在を解決し、女性医師が増えていくことに対応していくためには今までと同じやり方ではうまくいきません。
そうしたことから地域偏在対策としては地域医療支援センターや地域枠ができました。
その他、外科や産婦人科など訴訟リスクの高い診療科への支援体制の整備なども必要になってくるでしょう。
ちなみに産科領域では産科医療補償制度ができています。
産科医療補償制度分娩に関連して発症した重度脳性まひの児と家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、原因分析を行い、同じような事例の再発防止に資する情報を提供することなどにより、紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上を図ることを目的とした制度
また救急医療や、産科・小児科等の厳しい勤務環境にある医師に対する処遇がしっかりしている医療機関への財政支援なども検討されています。
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本ページは以上です。
医師養成についての流れは第25回医療経営士3級試験でも出題されていますので、しっかりおさえておきましょう。
それではまた次の記事で!